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 ●もっとも美しい木漏れ日をつくる樹 


 11月上旬のおだやかな曇りの日、  多摩川台公園の森を音もなく吹きぬける風は、ウォーキングでほてった体を冷やしてくれるのにちょうどいい秋のそよ風でした。
 散歩コースの中盤にある赤い欄干の「虹橋」をわたると、遊歩道は小山を一気に登る階段へと続きます。
 
 階段は歩きやすく整備されていますが、登るうちにしだいに息があがってきて、「ひと休みしたいなあ」と思いはじめるころに頂上に到着します。
 頂上はそれまでの道のようにせまい遊歩道ではなく、広葉樹の葉が天井を覆う回廊のような緑の空間です。そのむこうは広い運動場へとつながっていて、トンネルの出口のように明るい光がさしこんでいます。

 そして、息をととのえながら足を止め、ここで天を仰ぎ見た人は、だれでも一瞬、息をのむに違いありません。
回廊の天井からは、「もみじ」の葉と葉の間からこぼれおちる光のシャワーがふりそそぎ、まるで宝石をちりばめたようにきらきらと輝いているのです。
 木漏れ日を木の下から眺めると、日なたよりもまぶしいくらいの光の粒がきらめいています。日なたよりも光と影のコントラストが強いぶん、光を一層強く感じるためです。

 

 もしもこの遊歩道を作った人が、ここで人々が休憩することを計算して、あえてもみじを選んで植えたのだとしたら、文句なく一流の庭師だったはずです。もし意図的でなかったとしたら、なんという幸運でしょう。
 なぜなら、たくさんある樹木の種類のなかでも、広葉樹のもみじ――しかも適度な切れ込みがあって、小さな葉がたくさん茂る品種――以外に、これほど美しい木漏れ日を作りだす樹木は、ほかに存在しないだろうと思うからです。

 手のひらのような形をした葉は乳児の手のように小さく、葉と葉がかさなりあって、小さなすきまを無数に作るのにもってこいです。すき間は小さくなればれるほど、波である光の性質で、葉のふちの裏側に回りこむ「回折」の影響をつよく受けて、輪郭がやわらかくぼやけます。まるで綿毛をまとった豆球のように、優しい輪郭の光になるのです。
 また、ごくうすい葉は椿のような厚い葉とはちがって、光を少なからず透過させ、透けて見える葉の色は黄緑から薄緑、深緑までの美しい色彩を演出します。
 加えて、紅葉の枝葉はほそくしなやかなので、ほんのわずかなそよ風で軽やかに揺れ、無数の光まるで満天の星がまたたくように明滅します。
 まさにこのもみじと、光と風が出会ってはじめて、この景色が完成するのです。
 これから秋が深まるにつれてもみじの葉も紅に色づき、木漏れ日はまた新たな美しさに彩られることでしょう。
   
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[11月5日作成]

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