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 ●よりによって、なんでそんなところに・・・。 


 石垣のすき間はそんなに居心地がいいの?

真冬のある日、思わず声をかけてみたくなるようなところに
可憐に咲くスミレを見つけました。

咲いていたのは『たちつぼすみれ』。
野生のスミレですので、いってみればガーデニングのビオラやパンジーの原生種です。 日本で自生しているいくつかの野生のスミレのなかで、 「たちつぼすみれ」は林や道端にごくふつうに見つけることができます。

一般にスミレは寒さに強くて丈夫な花として知られています。
「たちつぼすみれ」にとってもそれは例外ではないようで、うつむき加減で人知れず花を咲かせるこの小さなスミレを、近くの林でいくつも見つけました。
* * *

さて、石垣のすき間に陣取っていたこのスミレの咲く場所は、東京都大田区の住宅街の一角、傾斜地に広がる宝来公園。
遊具はほとんどなく、50メートルほどの斜面とその一番下に池が広がる自然の地形を生かした自然園です。
この石垣は斜面の一番下で周辺の土を止めています。

驚いたことに、「すき間」は案外居心地がいいらしく、林周辺を見回してみてもこれほど健康的に植物が茂っているところはほかにありません。

たくましく咲いているスミレだなと思って見始めたのですが、
植物の生育には向かないと思える石垣のすき間が、 じつは植物のゆりかごとして見事に機能していることに気づきました。

* * *

いかに丈夫なスミレとはいえ、生育には温度と光と栄養と水が必要です。果たしてこの場所は、4つの条件をどう満たしているのでしょうか。

温度・・・ 土に比べて比熱の高い岩に囲まれているので、周辺温度は一度温まると冷えにくい。
(手で触ってみても土よりも石のほうが暖かい経験、ありますよね。)
光・・・・ 冬の日差しは高度が約50度前後と低いので、直立の岩壁にも十分に日が差し込む。
スミレにしてみれば、葉っぱ面を岩からほんのちょっとの角度(50度前後)上向きにするだけで、垂直に近い光を十分に浴びることができる。
(この現場の石垣は西に面していて、日差しをさえぎるものがないのです。逆に林の中に入ってしまうと木にさえぎられて、日差しはほとんど地面まで届きません)
栄養と水・・・ これが「すき間」の一番のポイントではないかと思いますが、栄養分が入った雨水がここに集中して流れるのです。 しかも、水はけも抜群。
おそらくスミレ自身も、種が雨水と一緒に上流から流れてきて、ここに定着したのでしょう。
(この現場では上流に広葉樹の林が広がっているので、腐葉土の有機成分をふんだんに含んだ水が、この「すき間」に流れ込んでいることでしょう)

自然の中を散策していると、いのちのたくましさに気づく場面が多いですが、 偶然見つけた「ニッチ」にぴったりとはまって生きるスミレにもそれなりの理由があったのでした。

以来、街の素敵な「すき間」が気になってしまう今日この頃です。

[3月25日更新]



たちつぼすみれ(立坪菫) Viola grypoceras
<たちつぼすみれ>
多年草。花の直径は15〜20mm。
開花期の葉はハート型で縁がギザギザしている。
ビオラの野生種で、日なたから半日かげの水はけのよい場所を好む。寒さに強く、深く根を張る丈夫な花。花の蜜は早春のチョウの好物。
(地域によって花色や葉形の異なる変種も多い)
2003年2月 大田区宝来公園にて




付近の様子。石垣のすき間のあちこちに緑の植生が縦にのびる。
スミレが咲いている場所は画面中央の辺り。(3月25日撮影)
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