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 ●おいしいイセエビの「ダシ」に隠された、驚きのナビーゲーション能力

イセエビと言えば、結婚式の披露宴や高級料亭などでしかお目にかからない高級食材。
頭と尾の甲殻を添えた姿造りのお刺身などは、その緻密な肉質と旨みを味わうだけでなく
姿からして海の王者たる風格を漂わせています。
またこの大物の頭に詰まったミソでダシをとった豪快なお椀は、甘味が出て実に美味しく
グルメでなくても垂涎の一品でしょう。

ところで、このイセエビ、人間のお祝いの膳に重宝されるだけの
頭の悪い下等動物だと思っていませんか?

確かに、もしペットにして名前を呼んでみても、決してなついてくれることはないでしょうが、
彼らの脳ミソにはまだまだ人間が知ることのできない、味わい深い秘密が隠されているようです。

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日本で一般的に「イセエビ」と呼ばれているエビの仲間がアメリカにも住んでいて
アメリカイセエビ、あるいはもっとポピュラーにロブスターの名前で親しまれ、生態の研究が進められています。

このアメリカイセエビの特徴的な能力の一つが匂いを嗅ぎ分ける能力
水が大きくゆらいで、匂いの粒子が散らばってしまっても、まず間違いなく目的物を発見できる
類まれな能力を持っているといいます。
この嗅覚メカニズムを機雷探知ロボットに応用しようと嗅覚メカニズムを解明するための研究が行われているくらいです。

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嗅覚能力のほかに、アメリカイセエビの能力で注目されているのが、
自分のすみかに間違いなく帰ることができる帰巣能力
アメリカイセエビは、季節によって深海の中を200キロメートルも移動することが
知られているのですが、どうやって正確に元のすみかに戻っているのか
そのメカニズムは謎に包まれていました。

英国科学雑誌ネイチャー(1月2日号)に、
彼らはどうやら地球の磁気地図を感じとって航路を決定しているらしい
という実験結果が発表されました。

この実験について、ちょっと紹介してみましょう。
研究者のBoleとLohmannがそう確信するに至った実験は次のようなものです。
まず、アメリカイセエビの目と鼻をふさいで、元のすみかから12〜37キロメートルも
離れた海底に放しました。
すると、アメリカイセエビ達は何もなかったように、元のすみかの方向に歩き出しました。

次に、今度はアメリカイセエビを地理的には移動せずに、彼らをとりまく磁場の強度と偏角を、
南北方向に何キロか離れた場所と同じシミュレーション値に変化させてみました。
すると、アメリカイセエビ達は、自分達がその離れた場所に来てしまったと
勘違いしたかのように、移動を始めました。

このことから、アメリカイセエビは目や鼻で自分達の位置を確認しているのではなく
地球の磁気地図を感じとって自分の位置を把握していると言えそうだ、
というのが今回の結果です。

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問題を解決しようとする時、ある一つのアイデアがあきらめがたく何回もよみがえることがあります。

実は「動物には地磁気を感じ取る能力があり、地磁気によってナビゲーション(航路決定)している」
という仮説は、19世紀の半ばから繰り返し議論されてきました。

渡り鳥やハト、ウミガメ、イモリなどの行動を追うと、この考えを信じずにはおれない
行動を示すことが分かっています。
進化論で有名なダーヴィンも、この議論に加わっていたといいます。

今回の実験結果は、無脊椎動物にも似たような能力があることを示す、初めてのものです。

しかし、アメリカイセエビが地磁気の強度と偏角を感じる能力があるかもしれない
ことは言えるとしても、例えば東西方向はどのように知覚しているのか
(赤道付近では地磁気の方向はほぼ経線に平行なので
地磁気の強度と偏角だけでは東西方向の情報は得ることができません)

ということや、体のどの部分でどのようにして感じとっているのかなど
彼らが地磁気を知覚するメカニズムはまだほとんど分かっていない状況で、とても興味深いのです。


[1月23日更新]

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